大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和29年(行)1号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

原告等訴訟代理人は、「被告が茨城県東茨城郡内原村(もと鯉淵村)大字鯉淵字十の割六五二六番の一八山林(現況畑)一町一反六畝二六歩について、買収期日を昭和二七年九月一日と定めてした買収処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求めた。

被告指定代理人は請求棄却の判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

(一)  請求の趣旨記載の山林(現況畑)はもと訴外高木千尋の所有であつたが、昭和二一年一〇月二五日原告両名が買い受け、その所有権を取得したものである。

茨城県東茨城郡鯉淵村農業委員会は、昭和二七年七月三〇日右土地につき買収期日を昭和二七年九月一日と定めて買収計画を樹立し、縦覧期間を同年七月三〇日以降八月一〇日までと定めて公告した。次いで茨城県知事は同計画にもとずき買収令書を発行し、昭和二八年一月一九日これを原告等に交付して買収処分をした。

(ニ) しかしながら右の買収処分は買収の根拠のない計画にもとずいてしたもので当然無効であるからこれが確認を求める。

二、答弁

(一)  原告主張の(一)の事実は認める。

(二)  本件買収計画の根拠は次のとおりである。

原告主張の土地は、昭和二〇年一〇月五日、当時の所有者である高木千尋から、国が小作料を毎年一反歩につき二五円と定めて賃借したもので、爾来東京鉄道局水戸管理部職員の食糧補給のため同管理部の職員同地を耕作してきたところ、国は昭和二三年九月頃これを訴外小林茂夫に転貸し(使用貸借による)その後は小林が耕作してきたものである。

一方高木千尋は昭和二一年一〇月二五日、原告両名に前記土地を売り渡したので昭和二〇年一一月二三日現在と、買収計画が樹立された昭和二七年七月三〇日当時とでは所有者並びに耕作者が異なつており、また右基準日当時は高木千尋は群馬県碓氷郡松井田町に居住していたのであるから、同日現在の事実によれば、右の土地は不在地主の所有する小作地に該当するわけである。よつて村農業委員会は自作農創設特別措置法第六条の五、第三条第一項第一号にもとずき買収計画を樹立したものである。

三、右被告の主張に対する原告の陳述

前記村農業委員会が基準日現在前記の土地が不在地主高木千尋の所有する小作地に該当し、買収計画樹立当時までに所有者並びに耕作者に変更があつたものとして自創法第六条の五によつて買収計画を定めたことは争わない。そして基準日現在、高木千尋の住所が被告主張の処にありいわゆる不在地主であつたこと、高木千尋が昭和二〇年一〇月五日国に対し被告主張の小作料を定めて賃貸したこと、その賃貸借の目的が東京鉄道局水戸管理部の職員の食糧補給にあつたこと、同管理部職員が耕作していたことも被告の主張するとおりである。しかし右の賃貸借については、期間を満三年と限り、期間満了後は如何なる事由があつても継続して賃貸しない旨の特約があつたもので、同賃貸借は昭和二三年一〇月五日の経過とともに消滅し昭和二四年三月当時水戸管理部在勤の小林直行から土地の返還をうけたものである。従つて国が同年九月小林茂夫に転貸する筈はなく、その事実もない。

ところで右のように賃貸借当時政府の職員である東京鉄道局水戸管理部の職員の食糧補給の目的があつたにせよ、いやしくも国として使用している土地は自創法第五条第一号にいわゆる国が公用に供している農地に該当し、同法第三条による買収の対象とはなり得ないものなのである。

本件買収計画に内在する右のような瑕疵は重大な法規の違反であり、その瑕疵の存在客観的に明白であり、同計画は当然無効たるを免れず、同計画にもとずく本件買収処分もまた無効の行政処分である。

四、右原告の陳述に対する被告の主張

原告は右の土地が基準日当時自創法第五条第一号にいう国が公用に供している農地に該当する旨主張するが、国または公共団体の職員の厚生施設として使用されている土地は同号に規定する農地にあたらないのであり、そのことは昭和二二年一月六日付農林次官通牒によつても明らかにされているところで、この点に関する原告の主張は理由がない。

第三、証拠方法(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例